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RESEARCH INTERESTS

森林管理と生物多様性の保全

生物の分布を規定する要因とその季節性の解明

日本の国土の約 7 割が森林であり、そのうち約 4 割が人工林です。古くから人が森林を利用してきた日本では、残された原生林はわずかで、その分布も高地や寒冷地に限られています。こうした状況を踏まえると、日本全体での生物多様性の保全上、人工林をどのように管理するかは非常に重要だと考えます。また、気候や地形が異なる地域では、生物群集を構成する種や各種の個体数は異なるでしょう。さらに、季節に応じて移動する動物の場合、これまでよく研究されてきた繁殖期だけでなく、越冬期も考慮することが必要なはずです。人工林という特殊な環境にどんな生物がどれくらい生息しているかを調べることで、地域差や季節差を考慮した生物多様性の保全策を考えていきたいと思っています

STUDIES IN PROGRESS

アジアのヨタカの知見の集約

人工林の林齢と混交率が繁殖期/越冬期の鳥類群集に及ぼす影響を北海道全域で検証

・夜行性鳥類の分布に各種人工林とその伐採が及ぼす影響を全国で調査

PREVIOUS STUDIES

・北海道のヨタカの分布に土地利用と気候が及ぼす影響

・季節で変わる鳥類の種数に対する気候と土地利用の影響

・植栽樹種が人工林の生物多様性に及ぼす影響:メタ解析

・人工林での保持林業がコウモリ類の活動量に及ぼす影響

・針葉樹人工林における植栽強度の甲虫類への影響

・四国の外来鳥サンジャクは森林率中程度の低地で拡大

アンカー 1

北海道のヨタカの分布に土地利用と気候が及ぼす影響

宮沢賢治の童話「よだかの星」の主人公、夜行性鳥類のヨタカは若い人には馴染みのない鳥のようです。ヨタカは、かつては数多くみられる普通種であり、「キョキョキョ・・・」という独特の甲高い鳴き声は日本の夏の夜を彩る代表的な音でした。しかし近年、ヨタカは大きく減少し、準絶滅危惧種に指定されるまでになっています。ヨタカはどんな環境をもった地域に多いのでしょうか?

 ​この疑問に答えるべく、北海道各地でヨタカの個体数を調査し、その分布を規定する要因を調べました。その結果、ヨタカは周囲4 kmの森林率が75%程度で、気温が高い地域に多く、森林率の重要性は気温よりも高いことが分かりました。さらに、北海道各地の環境からヨタカの個体数を予測した地図を作成しました。生息適地は北海道の中央部と南部の中山間地域に分布しており、北海道全域で縄張りを形成する雄のヨタカの個体数は約9万と推定されました。

 従来の広域研究では、在・不在(ある種がいるかいないか)が扱われてきましたが、丁寧に集めた個体数データを用いることで、ヨタカと環境の関係を適切に捉えることができたと思います。今後の地球温暖化や人工林の伐採によって復活するのでしょうか、それとも耕作放棄地の森林化でさらに減ってしまうのでしょうか?今後も注意して見ていく必要があります。

 また、今回のように気候と土地利用を分けて考えるのはそれほど簡単なことではありません。これは「気温が高くて標高が低い場所ほど人が自然を利用する」という関係があるためです。低地にも豊富な森林が残された北海道だからこそ、これほど土地利用の影響が大きく表れたと考えられます。

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Fig. 3 - コピー.png

500 m四方内に縄張りを形成するヨタカの個体数の予測図。色が濃い地域ほど個体数が多い。

​Kawamura et al. (2016) Ornithological Science

アンカー 2

季節で変わる鳥類の種数に対する気候と土地利用の影響

「北海道には鳥が多い」。こういった会話は鳥好きの間でよく聞かれます。しかし、東京出身で、大学時代に北海道の冬山を山スキーで駆け回った私は、疑問に思いました。春から夏にかけて夏鳥であふれかえる北海道ですが、冬にはカラ類やキツツキ類などの留鳥とわずかな冬鳥しか見かけません。季節によっては、北海道よりも関東の方が鳥は多いかもしれません。繁殖や越冬のために長距離を移動する渡り鳥の存在を考えれば、鳥の豊富な地域や環境は季節によって変わる可能性があります。

 ​そこで、全国の様々な場所で、同じ手法で調査されているモニタリングサイト1000の陸棲鳥類調査のデータ(森林サイト254ヶ所、草原サイト43ヶ所)を解析しました。その結果、森林と草原の両方で、夏鳥・冬鳥、漂鳥といった渡り鳥の種数は、繁殖期には涼しく生息地が豊富な地域で、越冬期には暖かく雪が少ない地域で多いことが分かりました。これを反映して、全種の結果も同様な傾向を示しました。各地の種数を予測した地図を作成すると、東北の太平洋側や山地の一部ではどちらの季節でも森林性鳥類の種数が多いと予測されましたが、多くの地域ではいずれかの季節にのみ高い種数を示しました。この結果は、日本全体の鳥類を維持していく上で、どの地域も重要な役割を担っていることを意味します。

 繁殖期を寒冷な地域で過ごす鳥類の多くは、越冬期を温暖で雪の少ない地域(国外を含む)で過ごす渡り鳥です。古くから人の土地利用が行われてきた温暖な地域には、原生的な自然はほとんど残されていませんが、こういった地域の気候や生息地も重要だと考えられます。国のようなスケールで鳥類が維持されていく環境を理解・保全していくためには、鳥類分布や環境の季節性を考慮する必要があります。

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鳥類の繁殖期(左図)、越冬期(右図)における森林性種(上図)、草地性種(下図)の約4 haあたりの種数の予測図。赤い場所ほど多くの種がみられる。白色の部分はモデルの予測範囲外の場所。

​Kawamura et al. (2019) Ecology & Evolution

アンカー 3

植栽樹種が人工林の生物多様性に及ぼす影響:メタ解析

世界的に天然林が減少する一方で、人が育てた“人工林”は増加しています。人工林に生息する生物の種数や個体数は一般的に天然林と比べて低いのですが、用いられる樹種によっても異なると考えられてきました。例えば、外来種よりも在来種を植えた方が人工林の生物多様性は高くなります。日本各地では様々な針葉樹種が植栽されてきましたが、生物多様性は異なるでしょうか?

 ​今回はシステマティックレビューによって既存の国内研究を収集し、メタ解析という手法で植栽樹種と季節が人工林の生物多様性(生物の種数、個体数)に及ぼす影響を調べました。解析の結果、ヒノキ科(スギ、ヒノキ)と比べてマツ科(カラマツ、トドマツ、アカマツ等)を植栽した場合に、春~夏よりも秋~冬に人工林の生息地機能が高いことが示されました。これらの結果は、“人工林”と一括りにせず、植栽樹種や季節によって個別に生息地として評価し、管理方法を考えることの重要性を示唆しています。

 また、今回は既存の研究を網羅的に収集したことで、人工林の生物多様性に関する研究が不足している地域、植栽樹種、分類群も指摘することができました。例えば、鳥類の越冬地として重要な地域である西日本では、脊椎動物の生息地としての評価が乏しいことが分かりました。森林に占める人工林の割合が約4割の日本では、西日本の人工林が越冬地として役立つのかも含め、その生息地機能とそれに対する管理の影響を詳しく調べていく必要があるでしょう。

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スギ(左上)やヒノキ(右上)に比べて、カラマツ(左下)やトドマツ(右下)の人工林は明るかったり、植栽木密度が低下しやすいことで、広葉樹や下草が定着・成長しやすく、生物多様性が高くなりやすいのだと考えられます。

​Kawamura et al. (2021) Journal of Forest Research

アンカー 4

人工林での保持林業がコウモリ類の活動量に及ぼす影響

森林伐採時に生物や生態系にとって重要な樹木等を長期にわたって残す保持林業は、環境配慮型林業として世界的に期待され、効果検証と普及が進められてきました。哺乳類の中でも多様で、個体数も多いコウモリ類は、森林の変化に敏感な上、害虫抑制の機能なども担っている重要なグループです。しかし、これまでコウモリを対象とした保持林業の研究はほとんどありませんでした。

 そこで本研究では、北海道の針葉樹(トドマツ)の人工林で行われている保持林業の実証実験地でコウモリ類の活動を調査しました。その結果、伐採地に広葉樹を50本/ha残した中量保持区と100本/ha残した大量保持区では、すべての樹木を伐採した皆伐区と比べて、コウモリ類の活動量が高い傾向がありました。この結果は、伐採地に残された広葉樹がコウモリ類の活動・休息場所を提供し、伐採の負の影響を緩和したことを示唆しています。

 ただし、大量保持区の方がコウモリ類の活動量を維持する効果が高いことも分かりました。したがって、多くの林分で少しずつ広葉樹を残すよりも、“メリハリ”をつけて、保全の優先度が高い少しの林分で大量の広葉樹を保持する方が効果的だと考えられます。今後、より詳細な調査を行うことで、より少量の広葉樹でもコウモリ類の保全に貢献できる広葉樹の選定・配置の方法が明らかになると期待されます。

この研究は北大時代の後輩である手島さんとの共同主著です。彼女が3年間も努力して取得・分析したデータを、頼れる先輩と先生のお力添えで形にすることができました。

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保持林業で伐採地に残された広葉樹は、長期間、少なくとも次の伐採まで維持され、様々な生物に活動・休息の場を提供するでしょう。

Teshima & ​Kawamura et al. (2022) Forest Ecology and Management

アンカー 5

人工林の収穫作業は夜行性の希少種ヨタカの生息を促進

草原や裸地といった遷移初期環境とそれらに依存した遷移初期種と呼ばれる生物グループは世界的に減少しています。一方で、人工林は拡大し、10年生以下の幼齢段階では遷移初期種の生息地として機能します。夜行性鳥類のヨタカは森林に囲まれた遷移初期環境で繁殖・採餌することが知られていますが、1970年代以降大きく減少しました。成熟した日本各地の人工林を伐採する収穫作業によってヨタカを保全できないものでしょうか?

 本研究では、北海道の針葉樹(トドマツ)の人工林で行われている保持林業の実証実験地でヨタカの生息状況を8年間調査しました。伐採されていない人工林と天然林、すべての樹木を伐採する皆伐、広葉樹を様々な密度で保持して伐採した単木保持、針葉樹を中央にまとめて残した群状保持を調査対象として、一部の調査地では伐採前から調査を行いました。この地域は、以前の研究でヨタカの密度が高いことが分かっていたので、伐採後にヨタカが定着すると期待されました。

 その結果、伐採されていない人工林では一度もヨタカを確認できなかった一方、伐採した人工林と天然林ではヨタカを確認できました。調査地の中心から半径500 m圏内の幼齢林面積はヨタカに正の影響を及ぼしましたが、今回の調査地面積の最大8 haを超えてからヨタカの生息確率が増加すると推定されたことから、複数の伐採地がヨタカの生息を支えていると考えられました。

 一方、標高はヨタカの生息確率に負の影響を及ぼしており、標高が高い場所ではほとんどヨタカの生息確率が上昇しないことも示唆されました。人工林の収穫作業により効果的に遷移初期種の生息地を形成するためには、その場所の気候や標高を考慮する必要があります。

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ヨタカの生息・繁殖が確認されている群状保持区。伐採地の中央に60 m四方の針葉樹パッチが残されている。

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幼齢林面積とヨタカの生息確率の関係。点は観測値(赤は天然林、青は人工林)で線はモデルの予測値(調査面積が5 haの場合)。

​Kawamura et al. (2023) Journal of Forest Research

アンカー 6

人工林における植栽強度の甲虫類への影響

国内の森林の約4割を占める針葉樹人工林の多くは、広葉樹や針広混交林から転換されたもので、これによって広葉樹に依存した生物は大きく数を減らしたと考えられます。そのため、人工林内やその周辺の広葉樹をうまく活用し、広葉樹に依存した生物を効率よく保全する方法を明らかにすることは、木材生産と生物多様性の保全の両立にとって重要な課題です。

 本研究では、北海道の千歳国有林で広葉樹の混交量が異なるトドマツとアカエゾマツの人工林と広葉樹天然林で有用な環境指標として知られるカミキリムシ類とオサムシ類を採集し、針葉樹の量(広葉樹の量と反比例)と捕獲個体数の関係を調べました。 カミキリムシ類では予想外なことに、広葉樹に依存したグループと針葉樹量との関係がみられませんでした。一方、オサムシ類では、針葉樹の量が多くなるほど個体数が少なくなり、多くの種では少しの針葉樹でも負の影響がみられました。常緑針葉樹は、落葉広葉樹とは地表付近の環境に対する影響が異なるのでしょう。

 これらの結果は、針葉樹人工林に広葉樹を混交させるだけでは十分な保全効果を得られない場合があることを示してます。残存した広葉樹天然林の保護は、人工林内では保全できない種を保全するための最も重要な方法であることを改めて示す研究でした。

​この研究は北大の後輩である入江さんとの共同主著です。甲虫マニアの彼のスキルを存分に活かし、飛翔するカミキリムシ類と地表を歩くオサムシ類の両方を対象にすることができました。

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​カミキリムシ類を捕獲するマレーズトラップ。

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​針葉樹の量が森林性オサムシ類の捕獲個体数に及ぼす影響。グループレベルの応答は、捕獲された総個体数による分析で、優占する種の応答が色濃く反映される。一方、種レベルの応答は、多くの種に共通してみられる平均的な応答を推定した。

Irie & ​Kawamura et al. (2023) Journal of Forest Research

アンカー 7

四国の外来鳥サンジャクは森林率中程度の低地で拡大

​世界各地で様々な生物が、自然分布域の外に人為的に持ち出されて繁殖し、外来種として移入先の地域の生態系に悪影響を及ぼしています。しかしながら、外来鳥類が生態系に及ぼす影響の研究は十分行われてきておらず、定着から時間が経過した外来鳥類の根絶は一般に困難であることが知られています。外来鳥類の分布を決める要因を解明することで、その拡大を防ぐ計画を立案し、在来種への影響を評価することが求められます。

 四国の西部の森林では、2000年頃に愛媛の娯楽施設から群れで逸出した外来鳥類・サンジャクの分布が拡大しており、地域の生態系への影響が懸念されています。サンジャクは中国南部から東南アジアが原産のカラス科に属する比較的大きな種です。雑食性で様々なものを食物としますが、鳥の卵や雛を食べることも知られています。サンジャクはどんな環境に定着しているのでしょうか?また、すでに在来種へ甚大な影響を及ぼしているのでしょうか?

 本研究では、サンジャクの効率的な調査方法とその分布を決める要因を調べました。その結果、サンジャクは初夏の朝に特定の鳴き声を拡声器で流すると見つけやすく、森林率が中程度の低地に主に分布することが分かりました。また、生息適地は現在サンジャクが定着していない四国東部にも広く分布すると推定されました。さらに、在来で普通種の鳥類4種の生息確率は、サンジャクがいる場所で顕著には低下していないことも示唆されました。

サンジャクが高密度化する前に、さらなる在来種への影響評価と分布拡大の阻止に向けた効率的な捕獲方法とモニタリング体制の確立が求められます。

本研究は高知大学の松田洋仁氏(現 倉敷第一中学校、理科教諭)の卒業研究として行われました。教育実習と野外調査を両立し、広域調査を完遂して中学校の先生になられ、お見事でした。

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鳴き声の再生に反応したサンジャク(撮影:松田洋仁氏)。

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本研究の概要。プレイバック調査で効率的にサンジャクを発見し、好む環境や生息適地の広がり、他の種の分布状況への影響(排反パターンになっているか)を明らかにした。

Matsuda & ​Kawamura et al. (in press) Ornithological Science

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